バジルの闘病中、ヤッピーにかまっているひまは全くといっていいほどなかった。
ヤッピーは感情をほとんど面に表さない子だった。
バジルと隣り合わせのカゴの中で、ずっと静かにしていた。
バジルを失って、私は激しいペットロスになった。涙のかわくことなど永遠にない気がした。
バジルが亡くなった日、お別れをさせてやろうとヤッピーをカゴから出した。出すのは、これを最後にするつもりで・・・。
ヤッピーは、ほとんどなつかず、言うことを聞かない文鳥だった。私はヤッピーを捕まえることができなかったので、放鳥後、カゴに戻る指令はいつもバジルが出していた。バジル亡き後は、可哀想だけれども、ヤッピーはカゴの鳥にするしかないと思ったのだ。
あんなにバジルを慕っていたのだから、何か別れの挨拶くらいあるだろうと思ったのだが・・・
なんと、ヤッピーはカゴから出るとバジルの亡骸には目もくれず、まっしぐらに私の肩に飛んできて、ひしと寄り添うではないか!
そして、泣いているわたしを慰めるようなしぐさをしたのだ。
「ボクガイルカラ、ダイジョウブダヨ」
というヤッピーの声が聞こえた気がした。
ただ、ただ、驚くばかりであった。
ヤッピーの気持ちが嬉しくて、嬉しくて、また泣いた。
だからといって悲しみが癒されたわけではないが、この日からヤッピーは私の心の支えになってくれた。
ヤッピーは豹変した。
ベタ馴れといってもいいほどに、いつも手の上にいるようになった。
昨日までのヤッピーと同じ鳥とはとても思えなかった。
何度もヤッピーに問うてみる。
「君はこの2年間、何を思っていたの?」
「イイジャン、ソンナコト」
「ごめんね、ヤッピー、君のこと何も分かってなかったね」
「イイヨ、ソンナコト」
この家にいるのはヤッピーと私だけ。
たった1羽、文鳥がいなくなっただけで、部屋がガランとして妙に広く感じられた。
静かな夜だ。
言葉を交わさなくても、ヤッピーと心がつながっている気がした。
この悲しくも幸せな日々は、新たな文鳥、チェリーを迎えるまでの2箇月余り続いた。
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